不穏の発生源が職員側にあるという罠

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認知症介護現場でよく聞く「不穏」状態


忙しい現場では、何か症状があった場合、「原因」ではなく、「現象」だけを見がちになります。

今回は介護職員の振る舞いが、BPSDの環境要因の一つとなっている場合について、実態を紐解いていきます。

現場の実態

残念ながら現場では、介護技術が十分でない人が多数派です。
無資格・未経験でも現場に立てる構造上、そうなりやすいのも事実です。
しかし、介護福祉士を持っていても、認知症介護に理解のない人もたくさんいます。

よく聞くフレーズとしては、

「さっき言いましたよ?(伝えましたよ?)」

この会話には何の意味もありません。

結果どうなるか。

知らない!聞いてない!と怒らせる
忘れていることを自覚させ、しょんぼりさせる
状況が読み込めず、混乱させる

むしろ悪影響すらありますね。

技術不足が不穏を生む構造

①声かけが「情報」として成立していない

声掛けは介護をする上で一番重要だと私は考えます。

声の大きさや声の高さ、話す速度、会話の間、話しだすタイミングは考えていますか?
利用者の注意は自分に向いていますか?
利用者の理解状態を確認していますか?

これについての理解がないと、声掛けはしているが、伝達してない状態になります。

それによって、利用者側からすると、何が起きているかわからない。
わからない状態で体に触れられると、恐怖や警戒が先に立ちます。

不穏が介助そのものではなく「始め方」で生まれているケースです。

会話が「関係性」を壊している

相手の理解や人格、感情への配慮がないと、会話してるつもりでも、成り立っていません。

例えば、
中核症状を理解せず、あしらうような態度や話し方をする
思ってもいないことを言い、見透かされる
一律に子ども扱いするような話し方をする
本人も楽しんでいると誤解し、適当な嘘をついたり、揶揄ったりする
身体的特徴を言って地雷を踏む

内容以前に、態度が伝わっていると考えた方がいいです。
こういった関係性のズレがストレスとなって蓄積し、その後の不穏へとつながるケースです。

最悪なのは、話しかけられているのに無視・聞こえないふりをすることです。
存在の否定ですね。
しかしこれに関しては、職員側にフォローが必要な可能性が隠れています。

身体の扱い方が「苦痛」を生んでいる

介護の勉強をしていると、必ず耳にするボディメカニクス。
これは利用者にとっても、介護側にとってもかなり重要な技術になります。

これを意識せず介護を続けると、自身の体を壊すだけでなく、利用者への負担、事故にもつながります。

痛みや苦痛は直接的に不穏へとつながります。
この不穏は症状というより「防御反応」ではないでしょうか。

不穏は突然起きているわけではない

上記のようなケースの多くは、介助の入り方・声かけ・扱い方の積み重ねで起きています。
技術不足は、本人に自覚がないまま不穏を量産します。

その結果どうなるか、次章に続きます。

「認知症の症状」にすり替わる瞬間

不穏が起きた場面を、少し思い出してみてください。

そのとき、
直前にどんな声かけをしたか、
どんな入り方をしたか、
どんな順序で介助を始めたか。

それらを振り返る前に、「認知症の症状」という言葉で片付けてはいなかったでしょうか。

再現性の見逃し

再現性、つまり、どういった場合にそうなるか、という検証をするために、
本来見るべきは、

・特定の職員のときだけ起きていないか
・特定の場面で毎回起きていないか
・同じ入り方・同じ声かけで起きていないか

これらを検証することなく、そのときの点の出来事として「不穏だった」という記録だけが残ると、
結果、ランダムな症状として扱われてしまいます。

利用者側のストーリーだけが残る

前後の文脈なしに、「不穏」という記録だけが残ると、
怒りっぽい人、拒否が強い人、介助が大変な人、
のような評価が積み上がっていきます。

そして、なぜその反応が出たのか、どこでスイッチが入ったのか、
という視点は永遠に失われます。

「朝起こしに行ったら機嫌が悪くて抵抗された」

このような記録を見た時、単に寝起き不穏だったんだな、以外に情報は得られませんよね。

誰が介助に入ったのか。
どんな風に声掛けしたのか。
どんな段取りで介助に入ろうとしたのか。
夜中どうだったのか。
同室者の様子はどうだったのか。

これを知らずして環境改善はあり得ません。

この検証は必要なのか

はい、必要です。
そしてこれを紐解くのは管理職サイドだと考えています。

では検証しなかった場合、現場では何が起きているでしょうか。

「ランダムに不穏が出る利用者」と認識されている人がいると、
職員は無意識のうちに距離を取るようになります。

誰が悪いわけでもありません。
自分が対応して問題が起きることを、避けようとするだけです。

その結果、

  • 介助が特定の職員に偏る
  • 現場の空気が重くなる
  • 精神的負担が蓄積する

最終的に、離職という形で表に出てくることもあります。

一方で、その不穏に特定のトリガーがあるとわかった場合はどうでしょうか。
対応の仕方が見え、「わからない不安」は「扱える課題」に変わります。

「利用者が不穏」というだけで、職員の精神的負担は大きく膨らみます。

少し立ち止まって検証することで、
介護職員の技術向上と、利用者の穏やかな生活、
そして職場環境の改善を同時に目指せるのであれば、
その時間は決して遠回りではないはずです。

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